今夜も来ないのなら、私は死んでしまうでしょう。

「…あー」

赤崎の元に手紙が届けられたのだが、内容があまりにもよろしくないもので、顔を引き攣らせる。
贈り主は赤崎が少し前まで通っていた女で、ここ最近は丹波の所に入り浸っていたものだから行ってなかった。
それにしても、厄介な手紙をもらってしまったと赤崎は思う。

「と、いうわけなんですが」
「真昼間から来たと思えばそれかよ」

悪いがその女にはもう興味がなくて、なぁなぁで通うのはひどいと思うから、少し前からやんわり交際をやめようと試みてはいたけど無理だった。
言ってもだめなら文に歌だが、なんせ赤崎は歌が苦手だ。
だから真昼間から、用事だと言って丹波の所に来た。
丹波ならなんとかできるのではと、小さな希望を抱いて。
ちなみに東、つまりこの桐壷においては、女官の承認さえ得られ、東の役人であれば誰でも昼間から訪れることができるから赤崎は丹波の部屋にいる。

「うまいこと、やんわりすぱっと断る歌を詠んでくれませんか」
「なに難しい要求突き付けてくんの」

直接行って断ってこいよそのくらい、こういう恋愛のもつれなんてよくあるだろうと丹波。
赤崎の話を聞いてやってはいるが、仕事中だから実に片手間だ。
ついでに赤崎の物言いに今日はお冠らしく、赤崎に視線を一度も合わさない。

「言ってどうにもならなかったから、真昼間からここに来てるんすけど」
「あーあー…こんなおばさんの所に夜な夜な入り浸るより、ちゃんと恋人大事にしてやればよかったんだよ…」

この女泣かせ、と赤崎に背を向けたまま丹波は言い放つ。
さすがの赤崎だって普段温厚な丹波にこうも言われたら普通は引くところだが、今回は引けない事情がある。

「あんたと初めて会った日、俺を追いかけてた下手人がわかりました」
「ふーん」

未だ仕事をし続ける丹波の文机に、赤崎は今頭を悩ませている手紙を置く。

「この手紙の女の家で働いていた男です」
「はっきりしてよかったじゃねぇか、これで月のない夜も安心して出歩けるな」
「まぁそうなりますね、見つかった時、すでにこの世にいませんでしたから」

赤崎の言葉に、今日初めて丹波が振り返って赤崎を見た。
顔には驚愕が浮かぶ。

「どーゆーこと?」
「男の身元がわかったから、下役人がこの女の屋敷に事情を聞きに行ったんです」

そしたら、その男は任を果たせなかったから職を解いたのだけど、家族を養えなくなるから使ってくれとしつこいから、好きな男の気をひいてくれたらそれに見合う報酬を出すと女は言ったらしい。
丹波が指を顎に当てて思案し始める。
そして、若干顔色を悪くして口を開いた。

「もしかして、お前に自分を取締させて主人の元へ行かせるために狂ったフリまでして襲った?」
「おそらくは」

赤崎は近衛府の武官だから、罪を犯した者を取り締まる仕事がある。
その職を持つ人間はたくさんいて、当たる確率など少ないにも関わらず、男は事を決行した。
実際、男の家族に報酬が出されていたそうだし、運よいというか、その事件は赤崎が処理した。

「ひでぇ…」

丹波が袖で口を押さえる。
なんて哀れな、ため息をつく。
そして今度は少し目尻を吊り上げて赤崎に詰め寄った。

「…まさかとは思うんだけど、その女、お前狙ってんじゃねぇのか」

恋愛的な意味ではなく、命的な意味で。

「認めたくないですけどね、叶わないとわかったから道連れにしたいみたいで」
「…ほんとお前って奴はー…!」

あーもう!と丹波は叫んで、一枚紙を取り、勢いよく文字を連ねていく。

「赤崎!」
「はい?」
「お前、寮住みだったよな」
「えぇ」
「今日から夜勤と残業をは外せ、んで仕事終わったら寮かこっちにすぐ帰ってこい」

女ってのは鬼と同じくらい怖いんだぞ!と言い散らす丹波に、赤崎はあれ、と思う。
すぐ寮に帰れなら違和感がなかったのだが、すぐ寮かこっち、つまり桐壷の丹波の所となると。

「丹さん」
「なに」
「来てもいいんですか」

夜に。
噂が恐ろしい早さで広がるこの場所で、夜、頻繁に訪れるのは少しまずいのではないのだろうかと赤崎は思う。
その考えになったのも寮に帰るという選択肢がなぜか頭にすぐ出なかったからなのだが、実は丹波にしてもなぜ赤崎を自分の部屋に来させるという選択肢を出してしまったのかがよくわかっていなかった。

「え、あ、あれー…?」
「なんすか」
「来るつもりなの?」
「丹さん嫌だったら寮に帰ればいいだけで、」
「あ、いや別に嫌ってわけじゃねーんだけど…うん…」
「なら来ます」


言い訳は胸の内