「手紙、出しといた」
「すんません…」
「そのほかになにか言うことは?」
「…あざっす」
「まったくだ、ほんと」

おかげで仕事に少し響いたと丹波がジロリと赤崎を睨む。
睨みながらもその手は仕事を処理するのを止めてない辺りがさすがか。
そう思いながら赤崎は床に座る。
そんな赤崎を横目に見つつ、丹波は一通の文を投げて寄越した。
…すこぶる機嫌が悪いらしい。

「それ、女からの返事な、ずいぶんと早くにきた」
「え」
「しかもすげー内容」

驚いてかたまる赤崎に読むように促す。

「…喧嘩でもふっかけたんすか」

真っ白な紙に書かれていたのは一つの歌。
だがなんとなく、発する雰囲気がまがまがしい。
いくら歌が不得意な赤崎でも、かなり物騒なことを書いているのはわかった。

「俺はただ、まぁお前のふりしてだけど、仕事が忙しくなったからって理由つけて送ったんだけどな」

女から返ってきた返事は、なんというか狂愛ともいうべき返事で。
ものにならないのなら、無理矢理にでも永遠にそばにいてもらおう。
そういった内容だった。
さすがの赤崎も言葉を失う。

「赤崎?大丈夫か、顔色悪いぞ」
「だい、じょうぶです…」

大丈夫とは言ってみたものの、正直怖い。
自分はまた、刃物を持った誰かに追いかけられるのだろうか。
それとももっと別の方法で?
そう考えると恐怖で身体が少し震える。
なにせ相手はこの不安を杞憂で終わらせてくれなさそうな女だから。

「…落ち着け」
「わっ!?」

ぼふ、と頭が丹波に抱えられた。
同時に背中もぽんぽんと、一定の調子で優しくたかれる。

「大丈夫、だいじょーぶ」
「た、丹さ、」

もしかして今、自分が埋もれている先は、この柔らかさからして胸辺りではないだろうか。
隣の部屋に漏れてたり、誰かに見られてたらかなりまずいのではないだろうか。
どうしようどうしようなんて柄にもなくあたふたする。
けど、丹波の大丈夫という声と背中をたたく手に、だんだん落ちついていく。

「手は打ってるから、あとは任せとけって、な?」
「…はい」
「よろしい」

さて、と丹波は赤崎を離して、一呼吸置きつつ視線をどこか遠くにやる。

「これだけの執着だ、仕掛けてくるのはかなり早いはずだぜ」

だから一気にかたーす。
そう言った丹波の目はどこかギラギラしていて、赤崎は驚く。
この人がこんな目してるのを初めて見た。
それにしても。

「、」

まったく、自分はなんて情けないんだろうか。
丹波にばれないよう、こっそりため息をついた。

「おやタンビー、熱いねぇ」
「!?」

ふいに声が聞こえて赤崎が顔をあげると、誰かが隣の部屋との境からこちらをのぞいていた。

「よう、早かったなジーノ」

よいしょと言いながら、何事もなく丹波は赤崎を離す。
どうやら突然現れた人物は丹波の知り合いのようで。

「僕の方は準備が終わったよ、あとは来るものが来るだけかな」
「ありがとなーほんと助かるわー」

知り合いだから話しているのはいいが、さっきあれほどまで密着していたのにこの放置っぷりはなんだ。
なんて思っていたら、丹波に眉間をピン!と弾かれた。

「っでぇ!」
「こら、ちゃんと話聞けっての」

ほったらかしにしてたのはどっちだよ、と言いたくなるのを赤崎は堪える。

「しょうがねぇからもう一回な、赤崎、こいつジーノ」
「よろしく、タンビーから噂はかねがね聞いてるよ、ザッキー」
「は、はぁ…」

ジーノと呼ばれた丹波の知り合いらしき女は、驚くほど端正な顔立ちをしていた。
まるで宮中でたまに見る、異国から渡来してきた役人のような。

「こいつが今晩、お前を守ってくれる」
「は」

守るって?と聞き返した赤崎を見て、二人の女は笑う。

「まぁ、見てもらわないと信じてくれないだろうし」

さっそく始めちゃおうかな、ジーノはそう言って、どこからか白い短冊のようなものを数枚取り出す。

「タンビーもザッキーの隣の部屋に異動してね」
「え、ジーノ、俺もか?」
「念には念をだよ、タンビー」

赤崎を置いて話は進み、赤崎と丹波は、隣の部屋の、丹波の部屋との境間近に座るようにジーノに言われる。

「さぁて、二人には絶対に守ってもらわないといけないことがあるよ」

なにがあっても、見ても、音を出さな、動かない。
二人の目をしっかり見ながらジーノは告げ、二人が頷くのを見ると、先ほどの白い短冊のような紙を持って、ぶつぶつ呟き始めた。

「ふっ」

吐き出されたジーノの吐息と共に、赤崎と丹波のまわりに風が渦巻いて、ジーノが手放した白い短冊を巻き上げる。
今日は凪いではないけど風があまりないのに、いったい、どこからこんな風が。

「はい、これで結界張ったからね、くれぐれも声を出したり動かないように」

結界という言葉にはっとすると、短冊が宙から舞い降りてくるところで。
赤崎の前をふわりと掠めたそれには呪が書かれていて、東西南北の位置にそれぞれ、お行儀よく落ちついた。
陰陽師?
声には出さないけれど口をぱくぱく動かした赤崎を見て、丹波とジーノはにんまりと笑った。


はかりごと