気難しい同僚が、最近やけに機嫌がいい。
これはもしやとちょっとカマをかけたら、予想外なことに素直にあることを認めた。
方向は合ってるけど次元が微妙にちがうような、意外な事実。
堺良則は世良恭平とつきあっている。
「少子化招いちゃったなぁ」
「…」
飲みに付き合わせた後輩赤崎はフリーズ。
そりゃそうか、自分の身内がまさかの同性同士で恋愛してるとなると。
まぁ自分もちょっとこの気持ちを酒の勢いで共有したくて、後輩で一番酒が強い、そんで口は固く、あの二人の関係にどこか気づいているであろう赤崎を誘ったわけだ。
「…宅飲みの理由はこれっすか」
「誰かに聞かれちゃまずいだろ、一応」
こくりと赤崎は頷いて、チューハイを一缶あけた。
同じチームのサッカー選手(男同士)が恋愛してるなんてメディアにばれたら大事だ。
「…なんとなく」
「んー?」
「なんとなくは、気づいてたんすよ」
「慧眼」
やっぱり気づいていたか。
「世良さんがわかりやすいんで」
「はは、そりゃそうだ」
赤崎がぐび、と二缶目に手をつける。
「まぁ別に、そういうのに偏見はないからいいんすけど」
「今時だからなぁ、好きなら好きで自由に恋愛してもいいと思うよ俺も」
国は許してくれないけど、友達くらいは許してやらねーと。
そう言ったら赤崎もフッと笑った。
なんだかんだいって世良と仲がいいと思う。
「しっかし世良は大変だぁ」
「大変?」
「あー知らないか」
若手は堺の恋愛歴を知らない。
そのデレた時の甘やかしっぷりと、夜は普段ムッツリな部分がオーバードライブすることを。
若かれし頃、お前昨日はどんな感じでお楽しみしたのなんて聞いたら後悔したくらいに堺はムッツリスケベだ。
「エロエロ魔人だからな、あいつ」
「え」
「若いときはすごかったんだぞー」
相手の女の子が完全に蕩けちゃったもんだから練習休んだことあるんだぜアイツ、と教えてやったら赤崎が目にもみえてびっくりした。
「恋愛経歴なさそうな人かと…」
「確かに見た目はな、だけどあいつ俺らより数は少ないけど質は濃いのやってるから」
「意外っす…」
「だろー」
しばらく無言になって、お互い缶をひとつあけた。
気まずくない、だけどぼやっとした雰囲気で。
「世良、感じやすそうだよなぁ」
ぽろっと下世話なことを口にだしてしまった。
「あぁ…あの人くすぐったいの駄目だから」
「お、ビンゴ」
普段の赤崎なら嫌そうな顔をしそうなところを、なんと驚き、俺の話に普通にのってきた。
「…丹さん、ちょっと聞きたいことあるんすけど」
「んー?」
「そもそも男同士ってやれるもんなんすか」
「…え、ごめん赤崎それマジで言ってる?」
「マジですよっ」
将来的に第二の堺になりそうなこいつは、どうやら本物に比べてウブだったらしい。
「尻でやんだよ、男は」
「は」
「ちょっと危ないらしいけどなーできないことはないらしいぜ?」
「うわ…」
知りたくなかった世界だ、と赤崎が呟く。
それを見て、あぁ赤崎はノーマル中のノーマルなんだなと思った。
純だねぇと呟いたら睨まれて笑ってしまう。
「んまー尻がこわけりゃ素股らしいけど」
「す…?」
「えっお前素股も知らないの」
首を傾げる赤崎に丁寧に素股の説明してやったら、珍しいことに顔をまっかっかにして酒をあおる。
「丹さん…エロオヤジみてぇ」
「オヤジだもーん、エロくてなんぼよ」
百戦錬磨よ最強よと言うと赤崎は笑った、普通に。
めーずらし。
「さっき堺さんのことあぁ言ってましたけど、丹さんもそれなりにやってるんじゃないすか」
「バレたか」
一応まぁ若いとき、それなりには遊んではいる。
まぁ語らなくてもいい、適当にごまかす。
「さくらんぼのヘタ、口ん中で結べるくらいかなー」
「それくらい俺だってできますよ」
「えー赤崎できちゃうのー」
やーらしーと茶化したら、それを言うなら丹さんだってと怒られた。
で、適当にぐだぐだしゃべって、いつの間にか意識が飛んでたみたいで。
気づいたら朝で布団にいた。
だけど妙に肌寒い。
「げ…」
なんかパンツ一枚だ。
あぁこれは昨日酔って酔って酔いまくって、暑くなって脱いだかなぁと思いながら、床に見つけた服を取りに行こうとした。
「い…っ!?」
つきん、と腰に微妙な痛み。
なんで腰が…昨日の練習で痛めた覚えは…と考えながら立ったら、視界が広がるわけで。
「…オウ」
ベッドの中、俺の隣には赤崎が寝ていたらしい。
こいつ、寝顔は年相応だな。
じゃなくて、見たかんじ、俺と似たような姿だ。
服は床に散らばっていて、俺は腰が痛い。
身体も、なんかあかーい痕があったりとか、なんか白いねばねばが飛び散ってたりとか。
部屋がイカ臭いとか。
「…人のこと、言えねー」
堺と世良がどうこうより、自分と赤崎がどうこう。
「起きろ赤崎!」
「ん…ぁ、丹、さん…?」
「とりあえず正座だ正座!」
「はぁ…?」
低血圧なのかもしれない、もそもそ動いて、だけど赤崎は俺の前にお行儀よく正座する。
そして俺の姿を見て、目の焦点が合ってくる。
「…どういうことなんすか」
それ、と赤崎は呟く。
「なんかお前にやられちゃったみたいなんだけど」
「…え」
「お前の身体見る限り、俺がお前をやったわけじゃなさそうだし」
「ぇ、う、わ、ちょ、ちょっと、待ってください」
「待つよ」
口に手をあててあーとかうーとか唸るのは、なんだか椿みたいだなぁなんて思ってたら、普段の冷静さがさっぱり消え去った赤崎が顔をあげた。
「ど、どうしたら…」
いいんすか、は言えなかったらしい。
俺も知りたいよ、どうしたらなんて。
つーかそれより、どうしてこうなったかが知りたい。
「ま…酒は飲んでも呑まれるなってやつだな…」
とにかく今はそれしか言えなかった。
にしても。
「赤崎ーオッサンに欲情しちまうほど溜まってたわけ?」
「溜めてないっす…」
「あーもう…そんな顔すんなよ」
椿みてーだぞーと頭を撫でて茶化しても、赤崎の顔は晴れない。
あ、今なんか犬みてえ。
くたりと垂れてしまった耳と尻尾見える気がする。
ジーノが言ってたこともあながち間違ってねぇわこれ。
「…すんません、丹さん」
「いーよいーよ、ちょっとびっくりしたけど記憶ないし、腰以外はどこも痛くないからお前優しくしてくれたみたいだし?」
「う…」
「終わっちまったことなんだから気にすんな」
「でも…」
いつもの赤崎はどこ行った、中身椿なんじゃねーのか。
「あーもう!」
「わっ!?」
赤崎を抱えてベッドにダイブ、うまいこと布団も被る。
「た、丹さん!?」
「一回寝ようぜ、そしたらもうちょい落ちつくだろ」
よーしよーしと背中をたたいてやったら、ちょっともぞもぞしてた赤崎がおとなしくなった。
俺の肩辺りにある赤崎の頭につむじがひとつ。
見てたらだんだん眠くなってきて、今日オフでほんとによかったと思いつつ、俺も夢の世界に旅立った。