明日から2日オフになるからみんなで飲みに行こうという話になった。
いつもこない面子も来るみたいで、賑やかになりそうだなぁなんてのんきに思ってたら、いつも通り一人だけそそくさ帰ろうとする人がいる。
「熊さん?行かないんすか」
そう聞いただけなのに、なぜかまわりが一瞬静かになった。
別に変なこと言ったわけないのになんでだ。
「俺酒苦手だから…」
「じゃあご飯だけでも」
みんな久しぶりに揃うからと言ったら、熊さんは少し悩んで、じゃあ食べるだけと言って先に行った(ちなみに今日は東東京で飲む)
あぁいい仕事したと思って自分の鞄を取ろうとしたら、なぜか丹さん達に捕まえられた。
「お前なんてことを…」
「え?」
あの丹さんがげっそりとしてため息をつく。
それに釣られて何人もが…特にベテラン組がため息をつく。
あのコシさんに王子まで。
い、一体なんなんだ。
「ETUやってはいけないことその3!熊を酒の席に呼ぶ!」
突然そう言ったガミさんに1と2があるんですかと聞きそうになったけど、ここはたえる。
それより。
「な、なんで…?」
「若手は知らないか…」
しょうがないから堺が教えてくれるってーと丹さん。
そんな丹さんに堺さんがほえて、気まずそうに俺を見てきた。
そんな堺さんが珍しくて、俺を含む若手は注目する。
「熊田、酒癖が悪ぃんだよ」
「は?」
「飯だけ食ってりゃ大丈夫だろって話にはなるんだけどよ、本人が避けてもまわりが気をつけても、どうしてかいつもどっかで酒が入って大変なことになる」
「大変なこと?」
赤崎が堺さんに尋ねたら、堺さんは遠い目をした。
「…キス魔になる」
その言葉に若手一同、面食らう。
あの熊さんがキス魔…意外すぎる。
いやだけどキス魔だけでこんなにも酒の席に呼びたがらないんだろうか。
「彼のキスはすごかったねぇ…イタリア人だって腰抜かしちゃうと思うよ」
王子が珍しく少し困ったように、だけどいつも通り爽やかに言う。
その言葉にまたベテラン組は顔色を悪くした。
「その割になんにも覚えてないし」
「普段が普段で生真面目だから」
「言うに言えないんだよなぁ、文句と事実を…」
「あぁ…」
…まさか。
「もしかして、みなさん」
「俺はされてないけど」
それ以外は当たり、とドリさんが言う。
そんなにすごいのか、酔っ払った熊さんは。
まぁだけど飲まなければいいだけじゃないか。
その時の俺はそう思っていた。
「わっ!?」
「だ、大丈夫っすか」
「あぁ…ありがとう矢野」
やってはいけないことをした罰として、俺は熊さんの隣に座らせられていた。
そして先輩達が言っていた、熊さん本人も飲みたくないのにどうしてか酒を飲んでしまうという現象を何回も見て、そして防いだ。
今だってなぜか飛んできたビールジョッキをキャッチしたのである。
なんで飛んできた。
「熊さんも災難っすね、飲みたくないのにこうもなって」
「昔からだからな」
もう諦めたよと熊さんは笑う。
で、次の瞬間に熊さんは水ぬれになった。
「え、ええ?」
「総員退避ーーー!!!」
「えええ」
丹さんの声に俺と熊さんのまわり、いや全員がすばやく俺達から離れる。
ちょっとちょっと、なにもそこまで。
というか熊さん、ビールかぶっただけみたいだし飲んではないと思うんだけど!
「みんなひどいな」
飲んでないよと熊さんが笑って、全員がほっと溜息をつくのが聞こえた。
そんで各々自分のいた席に戻っていく。
いつのまにかガミさんが近くにきていて、熊さんにタオルを渡していた。
「まぁ、これ以上いたら迷惑かけるし…俺は帰るよ」
「あ、帰るんすか」
「あぁ」
どうしようか。
明日はせっかくのオフだし、録画してたドラマも見たい。
「じゃあ俺も一緒に出ます」
「おうお疲れー」
「また練習でー」
お金を払って一緒に店を出る。
「あーどうしよう」
「どしたんすか?」
「酒かぶっちゃってるから、警察にあっちゃうと飲んでないのにひっかかりそうで」
「あぁ」
確かに。
熊さん、飲んではないけど酒かぶってるからにおう。
「じゃあ俺、運転しましょうか?飲んでないし」
「え…ただでさえ今日迷惑かけたのに…」
「いいですよー熊さんだって今日大変だったっしょ?」
「まぁそうだけど…いいのか?」
「ペーパードライバーでよければ」
「…じゃあ、お願いしようか」
熊さんの車に乗り込むと、なんか甘い、いいにおいがする。
こういうカーコロン、女子が好きそうだ。
そんでBGMもこう、きらきらふわふわピコピコ!みたいな…かわいい系の。
この人案外こういうの好きなんだなと思いつつ、車をだす。
熊さんの家はけっこう目立つ場所にあって、けっこう前を通ることもあるから、熊さんの案内なしでつけた。
「熊さん、熊さん、つきましたよ」
一回も喋らなかったせいか、熊さんは寝ていた。
揺さぶると、うーんと唸る。
「くーまーさーんー」
「ん…やの…?」
「つきまましたよ、起きてください」
「ー…やのー…」
「はい?」
この人ぜったい寝起き悪い。
起きてしばらくぼんやりタイプなんだろうな、きっと。
というか俺を誰かと勘違いしてませんか、なんでそうやわらかくにっこりと笑う。
「え、え、え」
そしたらなんか助手席から手が伸びてきて、あ、と思ったらもう。
なんにも音はしなかったけど、確かに熊さんは俺のく、唇を奪っていったわけで。
「くくくく熊さんんんん!!!?」
なにしてんすかアンタ!と言おうとしたらもう一回された。
で、さらにもう一回。
極めつけに。
「う…んっ!?」
丹さん達が言っていたことがよーっくわかった。
熊さんの舌が俺の口のなかで、それはそれは獰猛に動く。
や、ばい、頭真っ白になって、
「っぷは!」
やっと解放された。
やばいなんかよだれが。
じゃなくて!
「熊さんアンタ、」
「すー…」
「え」
すやすやと寝息をたてる熊さん。
その顔はほんのり赤い。
まさか。
「かぶった酒で今頃酔った…とか…?」
どんだけ酒に弱いんだ、というかどんだけ酒癖悪いんだこの人。
「あーもう!」
悩んでいてもしょうがない、とにかく今はこの人をさっさと部屋に連れていって早く自分の家に帰りたい。
正直、頭がパンク状態だ。
しっかし。
「うーん…」
嫌とも思わせず、反抗する気さえ起こさせずに奪っていきなさった。
しかもやられた!とか後で思わさせず、やられちゃったけどしょうがないと思わせるような。
「…俺も酔っちゃったかなぁ」
素面でなに気持ち悪いこと考えてんだか。
とりあえずお返しに熊さんの車で寮まで帰ってやる、そう決めた。