「山下ー!ふーちゃんが呼んでたぞ!」
「あ、わかったー」

そだ、場所は社会科資料室だってさ!

そう付け加えて去っていった部活中の友人に従い、
正門から校舎最上階の社会科資料室に向かう。

「失礼します」
「あ、悪いなぁ」

やっぱお前が1番仕事上手くだからなー…ついつい頼んじゃうんだよ。

そう言いながら、申し訳なさそうな苦笑を浮かべた先生から
ホッチキスを受け取って、プリントを止める作業を手伝う。


ふーちゃん。
つまり銘不仁成先生は社会科の先生でもあり、うちのクラスの担任でもある。
きっとこのプリントも、今週か来週のHRで使うんだろう。

「…大変、ですねぇ…」
「ははっ、おかげで良い御縁がないよ」

ぽつり、と言葉を零せば律儀に返ってくる返事。

(出会いの場所なんて、沢山あっただろうに…)

先生は将来エリートコースを歩むという某有名大学を卒業してるはずなのに。

(…それに、なー…)

俺が言うのもなんだけれども、先生は結構モデルみたいな顔をしてて…。
要はすごいどころか、めちゃくちゃもてる。

なのに御縁がない、か。

(世の中って不思議…)

「山下?どうしたぼーっとして」
「えっ、!?」
「体調悪いんなら帰っていいんだぞ?」
「ぁ、いや、その、」

言えない。
先生顔近い!とか。

「いや、大丈夫だったらいいんだ」
「…すみません」
「いいっていいって、残りもう少し、お願いするよ」
「はい」

あぁびっくりした。
先生って以外と睫毛長いんだー…って、どこ見てるの俺。
作業に集中、集中…。

「っ、た…」

もしかして今日、運勢悪かった?
睫毛、目に入るとか何年ぶりだよ…。

「睫毛入ったのか?」
「あ…大丈夫、ですから」

大丈夫、とは言ったものの出てこない。

「山下、ちょっとこっち来い」
「え?」
「取ってやるよ、睫毛」
「えぇ?」
「遠慮するな、ほら」

また、近い。
本当顔近い。

「お…もうちょいで…取れた!」
「あ…ありがとうございます…」

お礼を言ったあと、何故だか。
何故だか、目を閉じた。
閉じる必要も何もないのに。

自分でもあれ、と思った、そんな時。

「うぁ!?」

先生が、こけた気がした。
こけるのが難しいこの状況で。
俺が目を開けたら、倒れる瞬間に先生が俺の肩を引っつかむのが見えて、

「「!?」」

次の瞬間、先生の顔がどアップで視界に入りこんできていた。
なんで、こんなにも近い。

近い、
おかしい、
視線が交わる、
何かやわらかい感触。

「あ…、その、」
「ぇ、あ、ごめんなさいっ!!」

俺はダッシュで資料室から飛び出た。

どうしよう、明日から先生の顔をまともに見れない…!

刹那、曖昧キス
(その感触は、確かに、)