好きすぎて手が出せない。壊してしまいそうだし、なにより、嫌われたくない。
そんな気持ちをいつも、腹に抱えている。


ぺたぺたと音がする方を岩淵が振り返ると、風呂上がりの近藤がいた。
「冷蔵庫にお茶あるんで、どうぞ」
「ん、あんがと」
近藤の家に岩淵が泊まることはよくあるが、岩淵の家に近藤が泊まることはあまりない。そのため、自宅で近藤がくつろいでいるということが新鮮というかなんというか、感動ものだというか。湯上がりなのでゆでたてほかほかで、艶っぽさがいつもの五割増に見えるほどには、岩淵にとって刺激が強い。
もちろん岩淵の対近藤フィルター・岩淵比、である。
しばらくするとお茶を飲んで一服した近藤が、岩淵の隣に座る。自分と同じシャンプーとかボディーソープのかおり。そして濡れて少しだけぺたりとした髪。いろいろと、やはり岩淵には刺激が強い。
できることなら今すぐにでも押し倒したい。が、そんなことをしたらどうなるかくらいかの予想はできるので、耐える。
「ふう」
近藤が、髪の毛を拭いていたタオルを降ろした。
「あ、ドライヤー、」
「自然に乾から大丈夫だって」
気を使わなくていい。結局うまく丸め込まれて、一緒に映画を見る。途中、近藤がまたお茶を飲みに台所に行った。
その間、岩淵は時計を見る。夜の十一時半。映画もちょうど終わってしまった。昨日まで練習があった岩淵としては、そこまで疲れてはいないものの、少し早く寝たい気がする。
しかし近藤はどうだろうか。
「あれ、映画終わった?」
「なんか一瞬で終わりました」
「うわー…俺ちょっとしか離れてなかったのに」
見逃した、と残念がる近藤もかわいい。あぁほんと、一期一会ってこういうことをいうんだな。そこに近藤がいる幸せを噛み締めた岩淵である。
「あ、あの、近藤さん?」
幸せにぼんやりしていた岩淵の隣に近藤が腰を降ろした。のは、いいが、近い。お互いの腕が触れている。
「…嫌だったら、離れるけど」
「嫌じゃありません!」
むしろ大歓迎です!という言葉は飲み込む。言ったら多分、近藤は離れる。
ちょっと熱いけれど、自分からアクションを起こしてくることがあまりない近藤のアクションのためなら我慢!な岩淵である。さらなる幸せを噛み締めていると、近藤の頭がこてん、と岩淵の腕に預けられる。俺、もしかして夢を見ているのか。
そんなことを思いながら、恐る恐る近藤を見ると、目が合う。ゆっくり閉じたまぶたを見て、キスをした。軽く一回、まだ閉じているまぶたに期待してもう一回。こちらに向けられた身体に期待して、唇の端にもう一回すると、普段は難攻不落のその唇が開いた。おそるおそる滑りこませた舌に、近藤の舌がおずおずと絡む。
夢中になって貪っていたら、胸を叩かれたので渋々中断する。顔を赤くして、少し息の荒い近藤の目は、濡れて艶っぽい。
もしかして、今日はお許しが出るか。期待に胸を踊らせる岩淵を見て、近藤は笑った。
にやり。

ちゅ、と、リップ音に似たようで違う、濡れた音が岩淵の耳に届く。
「あの、ちょっと、付けすぎじゃ…」
岩淵の上の近藤が、岩淵の首筋、胸、至る所に赤い痕を散らしている。とてもうれしいことなのだが、さすがにあまりにもつけられると、服が着にくい。中断期間ではあるが、なんとなく。こんなに積極的な近藤はかなりレアだからやめてほしくない。
けどちょっとだけ、ほんのちょっとだけ控えてほしい…。
困ったと胸元の近藤の頭頂部を見る。つむじがきれいだよなぁ、かわいい、なんて思っていると、急に近藤が岩淵を見上げてきた。
驚いてびくりとする岩淵を見て、近藤が笑う。
「見せつけてこいよ」
「え」
「んで、困れ」
「そんな」
ちょっと困った岩淵を見て、また近藤が笑った。
「冗談」
ちろりと出した赤い舌で、岩淵の胸をなめた。
その光景がなんとも煽情的で、腹がきつくなる。近藤の好きなようにしてもらって構わないが、ただ、ちょっとイーブンじゃない。